【横須賀 イベントレポ】 海の森をつくろう!コアマモ植え付け体験会-アマモから学ぶ、海の環境再生
「海の森をつくろう!コアマモ植え付け体験会」
昨年に続いて過去最高の暑さを記録した2024年。気候変動をもたらす地球温暖化の進行を少しでも遅らせるべく世界では様々な取り組みが行われています。そのひとつが「海の森」と呼ばれるアマモ場の再生です。
今回取材したのは「よこすか海の市民会議」が横須賀市とともにリサイクルプラザ「アイクル」脇の造成浅場で取り組んでいるもの。多様な生き物が息づく干潟を再生させようと6年前に整備が始められたプロジェクトです。
イベントは普段解放されていないこの場所に市内の小中高校生を招待。コアマモの植え付け体験を通じて藻場の大切さや海の未来について考えて貰おうという主旨で開催されました。
「アマモってなあに?」
まずは神奈川県栽培漁業協会専務理事の今井利為さんによるアマモについてのお話しから――。
水深の浅い場所で生育するアマモは胞子で繁殖する海藻とは異なり、花を咲かせて種子を作り海底に地下茎を伸ばして生育する海草です。群生するアマモ場には魚類や海老、蟹などの幼稚仔(赤ちゃん)が餌を求めて集まります。また捕食者からの隠れ場になったり、産卵場所にもなっていることから「海のゆりかご」と呼ばれてきました。
しかし、高度経済成長期に始まる沿岸部の埋め立て、工業排水、食害、海水温の上昇などが原因で日本沿岸のアマモ場は大きく減少。稚魚などの成育は陸上の水槽施設で行われるなどしてきました。今井さんが専務理事を務める城ヶ島の神奈川県栽培漁業協会でも卵から稚魚・稚貝になるまでの生育を行い、海に放流しています。
そんな中、アマモが光合成によって二酸化炭素を吸収、地球温暖化の抑制に繋がることから近年「ブルーカーボン生態系」として注目。アマモ場再生への取り組みが全国各地で行われるようになっているのです。
海の畑に100株のコアマモを植え付け
コアマモの苗は近海で採取されたもの。植え付ける前に根をひとつずつ紙粘土で巻きます。せっかく定植した苗が海に流されてしまわないように重石をつけるのです。
子供たちは、粘土遊びはお手の物と、あっという間に100株ほどの苗を完成させました。ちなみに紙粘土と言っても、貝殻と同じ成分でできている海に溶けても問題のないものです。
苗が準備ができたところで造成浅場へ移動。6年前に整備が始まったこの場所では砂が馴染んだ2年前からコアマモの植え付けが始まっています。
子供たちが膝下くらいまでの浅瀬に入り、岸と並行に貼られたロープに沿ってコアマモの苗を田植えのように定植していきます。
深く植え過ぎてもダメだし、浅く植え過ぎると波の力で流されてしまう。この日はあいにくの小雨と風により濁りが強く海の中が思うように見えませんでした。陸上の畑とは勝手が違う海の畑でのコアマモの植え付けに苦戦を強いられた子も少なくなかったようですが、無事すべての苗を植え付けることができました。
未来の海の森
自分たちが植え付けをしたアマモはどんな風に生長するんだろう。海の森ができたらどんな生き物たちが帰ってくるんだろう。そんな子供たちの疑問に応えるべく、植付の後には2年前に植えられたアマモ場で「海の観察会」が開かれました。
2年前に植えられたアマモの苗は活着し大きな株に生長。群落を形成しています。箱眼鏡で海の中を覗くとその周囲には蟹やクサフグなど多様な海の生き物たちの姿がありました。
雨が降り出しても夢中になって海の生き物たちを観察し続ける子供たち。好奇心いっぱいの瞳の中に美しい海の未来が見えたような気がしました。人間と多様な生き物たちが共に生きる、本来あるべき海の姿が。
クロージングとして行われた「海のおはなし会」では空中ドローンで撮影されたその日の浅場の様子や水中ドローンで撮影されたアマモ場の映像を鑑賞。よこすか海の市民会議代表の川口将人さんから6年に渡る取り組みについて報告がありました。
アマモの群落に産卵に来たモンゴウイカ。環境が良くなったことで自然発生した天然のワカメやアカモク。
「海の森の未来にはわくわくすることしかない」という川口さんの少年のような笑顔は希望に満ち溢れていました。
人間だけでなく、多様な生命を育んでくれる海。豊かな海を100年後の子供たちに受け継ぐにはひとり一人ができることを着実にやる以外にありません。それは底の見えない水中に小さな苗を一本ずつ植えることに象徴されるような地道な作業です。
それでも、やるしかない。多様な生命を育む海を守る為の取り組みはまだまだ続いていきます。
【イベント詳細】
■開催日 2024年9月16日(月・祝)
■開催場所 リサイクルプラザ「アイクル」(横須賀市浦郷町5丁目2931)脇の造成浅場
■参加者 横須賀市在住の小学生、中学生、高校生と保護者50名程度
■主催 横須賀市 よこすか海の市民会議