【藤沢 イベントレポ】「旧モーガン邸で楽しむベンガラ染」- 木々のもとで手仕事と庭園を味わう豊かな時間
日本で活躍したアメリカ人建築家J.H.モーガン氏
12月11日まで開催中の「湘南邸園文化祭2024」のイベントのひとつである「旧モーガン邸で楽しむベンガラ染」に参加してきました。
▼湘南邸園文化祭についての記事はこちら▼
湘南邸園文化祭2024 - かつての財政界人や文化人が築いた邸園文化を知り継承する
このイベントは、藤沢市大鋸に残る洋館「旧モーガン邸」の庭で泥染であるベンガラ染を体験できる企画です。
旧モーガン邸は、建築家J.H.モーガン氏の自邸として昭和6年頃に建てられたもの。
アメリカ人の彼は1920年(大正9年)に来日し、東京の丸ビルや日本郵船ビルの建設に携わりました。
来日後まもなく出会った石井たまのさんと結婚し、自邸を大鋸の丘の上に建て、たまのさんの両親と共に暮らしました。
モーガン氏が手掛けた建造物には、横浜の山手111番館やベーリックホール、旧根岸競馬場一等馬見所のほか、東北学院大学の本館や礼拝堂、神戸のチャータードビルなど多岐にわたります。
関東大震災を経験したモーガン氏は、地震に負けない頑丈な建物を造ろうと心に決めたそうで、作品のひとつである立教大学4号館においては、全国の学校で耐震性の見直しがあった際にすべての基準をクリアしていたため、補強などの必要がなかったとのこと。
火災に遭った旧モーガン邸の再建を目指して
そんなモーガン氏が終の棲家として建てた旧モーガン邸はオレンジの瓦が特徴的な洋風の外観に和洋折衷の室内を持ち、さまざまな植物が育つ豊かな庭を携えていましたが、2007年と2008年の2度にわたって火災に遭い大きな損傷を受けました。
現在は公益社団法人横浜歴史資産調査会(ヨコハマヘリテイジ)とNPO法人の「旧モーガン邸を守る会」が力を合わせ、修復再生を目指して募金活動を行っており、多くの人に知ってもらうために毎月8日を庭園解放日としてさまざまなイベントを開催しています。
ベンガラ染の醍醐味を堪能
その一環として行われた今回のベンガラ染。
ベンガラ染は土から採れる酸化鉄を使った染色で、古くから陶器や漆器、家屋の壁などに使用されてきました。
昨今では天然素材として重宝され繊維製品への染色にも使用されるようになり、今回はスカーフを染めました。
教えてくださったのは、藤沢駅近くの古民家カフェ「蔵まえ34」を営む佐野晴美さん。
藍染や草木染など染め仕事に詳しい方です。
まずはスカーフを浸透剤につけて絞り、タオルでしっかりと水気をとります。
それから選んだ染料で染めていきます。
今回持ってきていただいたのは「弁柄(べんがら)」「鬱金(うこん)」「茜(あかね)」「銀鼠(ぎんねず)※」などの名前が付いた色とりどりの染料。
※銀鼠(ぎんねず)とは、
江戸時代には、着物の色として大変流行したそうです。
好きな色を選んで、思い思いに浸したり絞ったりしてデザインしていくのですが、やってみるまでどうなるかわからないのがベンガラ染。
長年染物をされている佐野さんでも「半分は偶然の産物」とおっしゃるように、折り方や染料の濃さ・重ね方によって、その時々で仕上がりが異なる面白さを秘めています。
私は、優しい黄色の「鬱金」と鮮やかな「茜」を選び、縞模様を作ってみました。
折りたたんで染料に浸したあと、ドキドキしながら広げてみると想像以上のかわいさにびっくり!
他の参加者の方も「どうなるかな?」「こうしてみる?」と実験のように楽しんでいらっしゃいました。
出来上がった作品はどれも違った魅力があり、思わず見とれてしまいました。
さまざまな植物が四季を織りなす庭園
佐野さんは「旧モーガン邸を守る会」役員である佐藤さんと知り合ったことをきっかけに、「自分が再生の手伝いになれば」と旧モーガン邸でのイベントに協力するようになったそうです。
「草木染にも使われる楠や椿、びわなどがたくさん植えられている旧モーガン邸のお庭で、自然を感じながらやる染物はとても味わい深いものがあります」と話す佐野さん。
そう、旧モーガン邸には本当にたくさんの植物が植えられており、シンボルであるレバノン杉をはじめ、ソテツ、イロハモミジ、サツキ、ドウダンツツジなど四季折々を楽しめる庭園となっています。
染めたスカーフを乾かしている間は、そんな庭園をボランティアガイドの方に案内していただきました。
火災を逃れた井戸ポンプ小屋や車庫では、貴重な展示や資料を見ることができます。
車庫として使用していた建物には、かつてのモーガン邸の模型が展示されており、その美しい全貌に想いを馳せることができます。
旧モーガン邸を“人が生きた証”として残したい
守る会のスタッフやボランティアの方によるマーケットも開かれており、ここでしか買えない手作りシフォンケーキや旧モーガン邸グッズが販売されていました。
庭園では夏みかんや里芋も育てているので、マーマレードを作って売ったり、里芋で豚汁を作って振舞ったりすることもあるそう。
これらの売上は修繕費に充てられています。
守る会のお一人にお話を伺うと、「井戸があって高台にある旧モーガン邸は避難場所にもなり、自然豊かな庭園は憩いの場としてもってこい。地域の文化の発信地にしていきたい」と活動への想いを教えてくださいました。
「“人が生きた証”に人は惹かれます。アメリカから来たモーガン氏が日本を生きた証がここにあるからこそ、残して再建する価値があると思うのです」という言葉が胸に刺さりました。
次回は12月8日(日)に「自然素材のリース作り」が開催されます。
庭園内の松ぼっくりや木の実を使ってクリスマスにぴったりのリースを作ることができるそう。
自然を味わいながら出会いや建築を楽しむことができるイベントを通して、旧モーガン邸のことを知る人が一人でも増えることを願っています。
湘南邸園文化祭2024参加企画 旧モーガン邸で楽しむベンガラ染
開催日時
2024年11月8日(金)11:00-14:30
開催場所
旧モーガン邸庭園 イベント広場
住所:〒251-0002 神奈川県藤沢市大鋸1122
駐車場:なし ※近隣にコインパーキング有
参加費
2,500円〜(スカーフ1枚付き)
主催
NPO法人旧モーガン邸を守る会
問い合わせ
メール:1122morganhouse@gmail.com