【藤沢 イベントレポ】魚×野菜が同時に育つ「アクアガーデンラボ」が江ノ島駅に登場(後編)
後編では、株式会社アクポニ(以下アクポニ)孫田賢佑氏と、江ノ島電鉄株式会社(以下江ノ電)取締役 露木健勝氏のインタビューをお届けします。
アクアポニックス事業に関する連携協定や江ノ島駅に設置した「Aqua Garden Lab(アクアガーデンラボ)」の取り組みについては前編でご紹介したとおりです。
それを踏まえて、業務提携の背景やアクアポニックスのメリット、両社が思い描く未来のまちづくりなどについてお話を伺いました(2023年3月31日実施)。
*アクアポニックスと「Aqua Garden Lab(アクアガーデンラボ)」オープニングセレモニーについては、記事前編▼をご覧ください。
【藤沢 イベントレポ】魚×野菜が同時に育つ「アクアガーデンラボ」が江ノ島駅に登場(前編)
出席者プロフィール
露木 健勝(つゆき たけまさ)
江ノ島電鉄株式会社 取締役(経営管理部担当)。アクアポニックスに個人的に興味を持ったのがきっかけで会社に提案し、新規事業化に向けた検討に着手することとなった。
江ノ島電鉄株式会社:湘南で鉄道、バス、観光、不動産、最近ではマイクロモビリティー事業(シェアサイクル)などを展開。「移・食・住」3つのカテゴリーを新規事業のテーマにしている。
孫田 賢佑(そんた けんすけ)
株式会社アクポニ教育部担当。農業に関する知識は全くなかったものの、アクアポニックスの魅力に惹かれて入社。
現在はアクアポニックスのスクール「アクアポニックス・アカデミー」、自社農場の生産管理や見学会などを担当。自宅でも3基のアクアポニックスを自作し、子どもと楽しんでいる。
株式会社アクポニ:「アクアポニックスで人と地球をHAPPYに」をビジョンに掲げる、アクアポニックス専門企業。アクアポニックスの導入支援をメイン事業とし、導入、施工、その後の生産管理支援などを行う。
提携の呼びかけは江ノ電から
露木健勝氏(江ノ島電鉄)
--今回の業務提携についてお伺いします。まず、どちらが先に声をかけたのでしょうか?
露木 最初のきっかけは個人的な興味でした。アクアポニックスというものを藤沢でやっているらしいとネットのニュースか何かで見て、私が濱田さん(株式会社アクポニ代表取締役 濱田健吾氏)の所に行ったのがきっかけです。
何といっても、コロナ禍で人の移動が少なくなってしまったことが大きいですね。鉄道とバスの収入が半分以下に落ちてしまいました。
通勤客の方々も一定程度通勤されなくなり、沿線に3校ある高校も全部休校になってしまったこともありました。
それから、観光客の方々は本当にゼロになってしまいました。
鎌倉駅も江ノ島駅も一日中閑散としていましたね。沿線で商売をされている方々も大きな打撃を受けて、お店を閉めたりされたところもありました。
社内では、このような状況だとコロナ禍が回復したとしても、多分皆さん戻って来られないのではないかという意見もありまして。
やはり当社の収益上、これはちょっと新しい事業を探さなきゃいけないなっていうのは会社としてありまして、いろいろ検討していました。
露木 中でもアクアポニックスは循環型ビジネスで、これからSDGsにも会社で取り組まなければいけないという弊社の方針に非常に合致するものでした。
また、地元、藤沢市で農業試験場を展開されているというところもポイントでしたね。
それで、アクポニさんと連携してオール藤沢でアクアポニックス事業をやったらいいんじゃないかと思ったのです。
--アクアガーデンラボの運営は、どのような形なのでしょうか。
今回の江ノ島駅の取り組みは、当社が事業を行い、設備をアクポニさんに設計してもらって、それを購入する形としました。
あとは、生産のコンサルティングを孫田さんにやっていただいています。
*参照:アクアポニックスは、SDGs全17ゴールのうち11ゴール(33指標)の目標達成に貢献すると考えられています。
既存の施設に併設すると、新たな価値を創出する
--アクアポニックスは、どのように環境に優しいのでしょうか。
孫田 アクアポニックスは水槽で魚の養殖を行う関係上、化学肥料や農薬、除草剤、そういったものが一切使えません。ですから、完全オーガニックの野菜ができます。
食べる人にとってもうれしいですし、もちろん環境負荷を下げられるメリットもあります。とっても環境に優しいですよ。
また、電気等のエネルギーも循環が可能です。
江ノ電さんの設備もそうですが、アクアポニックスも水温の調整や室温の調整、環境制御はある程度必要です。どうしても電気のエネルギーを使ってヒーターやチラーを動かすことになってしまうんですね。
でも、そこで例えばビルの屋上や工場などにアクアポニックスを併設すると、その施設の余剰電力や、そこで出た廃熱を一部アクアポニックスに使えます。
外から新しいエネルギーを持ってくるんじゃなくて、その中で発生したものをアクアポニックスに活用できるんですね。そうやって、建物の中でエネルギーを循環させられます。
元々ある設備に併設することで、その設備の持ってるリソースを一緒に使っていけるんです。
もちろん、それは資源だけの問題ではありません。
例えば江ノ電さんだったら、駅の中の循環とアクアポニックスを結び付けて、アクアポニックスを目当てに来る方がいてもいいと思います。
また、先ほどイルキャンティ・ビーチェさんに小松菜を配送しましたが「あそこで作っていたものを扱うお店に食べに行こう」といった、人の流れも起きると思います。
アクアポニックス単体でも生産設備としては十分価値があります。ですが、元々ある設備とか、いろいろな物と併設することで、さまざまな価値を生み出せるんじゃないかと思っています。
--建物の余剰エネルギーを利用して温室の管理を行い、野菜と魚を同時に育てる。とても合理的ですね。
実際に収益化に成功しているところはあるのでしょうか。
孫田 都市併設型では、収益化に成功している事例もあります。地方大規模型はこれからです。
資源も、人も、経済も循環する新しいまちづくり
--江ノ電が考える循環型のまちづくりとは、どのようなイメージなのでしょうか?
露木 今は何かを造って呼べばいいという観光から、どちらかというとライフスタイルを体感するような観光にシフトしていると思います。
当社もそういう視点から「藤沢っぽい」とか、湘南に住んでいる方々のライフスタイルに適合するようなイメージを観光にも付加していくことに取り組んでいるところです。
その結果「この地域に住みたいな」とか「ここに来ればエシカルな消費ができる」とか。そういう地域の魅力をつくり出して大勢の人に来ていただき、住んでいただくことを目指しています。
現在、産学官民で共創して、プラスチックを回収し何かを作り上げるという、鎌倉市と慶應義塾大学のプラスチック地産地消プロジェクトに参加しています。
例えばペットボトルや、ペットボトルのキャップを回収し、それを3Dプリンターの原料にして製品を作り地域で使うという、資源を循環させる取り組みです。
コロナ前には鎌倉市役所の前で、ブロックを生成して江ノ電の車両を作るプロジェクトにも参加しました。
また、長谷駅にスタンド型水サーバーを置いて、駅を利用される方なら誰でもマイボトルに水をくめるようにしています。
ペットボトルを削減する取り組みの一環ですね。水道代は江ノ電が持つということで。そんなふうに、循環型社会に向けて徐々に取り組んでいます。
次はアクアポニックスで「食」の循環に取り組み、地域のお役に立てればいいなと考えています。
孫田賢佑氏(アクポニ)
--アクポニさんは、どんな将来像を描いていらっしゃいますか?
孫田 アクアポニックスの中だけでも資源の循環、水の循環は起きるのですが、僕らがつくっていきたい循環型社会はその先にあります。
資源の循環もそうですが、そこに関わる人や経済的なものも含めて、アクアポニックスが大きな循環の輪の中に組み込まれるのがベストだと思っているんです。
アクアポニックスを企業さんで連携するとか、地域のレストランと結び付くとか、教育の中で使われるとか。
アクアポニックスが単体で大きくなっていくというよりは、いろいろなところ、場合によっては自治体みたいなところと手を組んで、一緒に成長していきたい。
SDGsに近い町だったり、新しい農業に取り組んでいる町だったり。アクアポニックスをブランディングのツールとして活用していくのもありえるのかなと思ってます。
そのために、まずは日本中にアクアポニックスを広めていきたいです。
必ずしも大規模に展開することだけを目指しているわけではありません。
大規模化して生産設備としてやっていくパターンと、既存施設や町の中で都市農業としてやっていく小~中規模ぐらいのパターン。その両方があると思っています。
多分、それぞれの方向性で発展していくんじゃないかなと、僕らは今思っているところです。
--最後に一言ずつお願いします。
露木 まずは当社を利用する人、それから藤沢市、鎌倉市の人にアクアポニックスという言葉を知ってもらうことから始めたいと思います。
その先としては、アクアポニックスを利用した野菜や魚を食べてもらい、それが循環していることを感じてもらいたい。
そうやって徐々に循環型社会に寄与しながら、当社の沿線を盛り上げていければと思っています。
孫田 藤沢市には弊社の農園もあるので、地域活性化につながるよう江ノ電さんと一緒に盛り上げていきたいです。
今後は生産できる魚や野菜の品目を増やしていくとともに、加工品等の6次化にも挑戦する予定です。
ぜひ江ノ島駅にある「Aqua Garden Lab(アクアガーデンラボ)」に実物を見に来てください!
ーー今日はどうもありがとうございました。
まとめ
個人でも、企業でも、誰でも始められるのがアクアポニックスの魅力の一つです。
アクアポニックスを中心に人や企業がつながり、資源や経済が循環する新しいまちづくり。
小さな循環が少しずつ広がり、やがて大きな循環を生み出すという夢のあるビジョンをお聞かせいただきました。
実証実験の成功を期待しつつ、今後の展開に注目していきたいと思います。
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