【三浦市 イベントレポ】松本薫さん講演会~「勝ち」にこだわる闘争心
2025年1月22日、「三浦商工会議所 新春講演会」が開催されました。
講師は柔道ロンドンオリンピック金メダル、リオオリンピック銅メダルの松本薫さんです。
会場の三浦市民ホールは三浦野菜や三崎マグロ、三浦半島のグルメが楽しめるうらりの二階にあります。
目次
実は、勝ちにこだわっていなかった過去
「皆さんが想像するオリンピアン、メダリストは目標に向かってまっすぐ向かっていくようなイメージがあるかもしれませんが…私は自分が競技として相手と戦うのは正直しんどいな…と、実は柔道が好きではありませんでした。」
今回のテーマである「『勝ち』にこだわる闘争心」とは真逆でした、という松本さんのお話から講演は始まりました。
・柔道は好きではなかった
・身体の才能はなかった
・強くなりたいという思いも無くオリンピックも最初から目指していたわけではなかった
この三つが大きな壁でした。しかし、それを乗り越えていく事で大きな柱となったのだそうです。
勝ちに対してのこだわりの第一歩
5歳から始めた柔道はとても厳しい道場だったこともあり、好きにはなれず、子供の時には勝ちたいと思ったことがなく、セコンドに付いた先生が他の道場生の方に目をそらした隙にわざと負けていたそうです。
勝ちへの執着がなく、考えていたのはいかに早く試合を終わらせるかだけ。
それでも全中(全国柔道中学校大会)では先生の目を盗む隙がなく優勝、三井住友海上から未来の育成選手として来てくれないか、とオファーが来ました。
「道場は365日休み無しで平日は夕方5時から夜9時半まで、土日祝日は朝7時から夜7時まで12時間、強くなりたいからではなく、自由になれると思ってオファーを受けて金沢から東京へ行きました。」
いざ実業団へ入ると、周りの先輩は強くなりたい、日本一世界一になりたい、とがむしゃらに、
時に涙を流して練習しています。自由だけを求めて入った松本さんにはその気持ちは全くわかりませんでした。
そして都会の東京では遊べる環境がたくさん有り、道場からは徐々に足が遠のきます。そうなるとこれ以上面倒見切れないと、17歳の時にクビを宣告され高校も退学に…。
強くなりたいという思いは全くなく、ずるずるとやめられなかった柔道、今こそ辞め時なのでは?と思ったそうです。しかし…
子供の頃の夢はケーキ屋さんかアイス屋さん、早く飲食の道に進んでいれば…
中学の時、本当は陸上が好きでやりたかったのにやれなかった…
学校の友達と一度も遊んだことが無くて、遊んでみたかった…
と、やりたかった事がいろいろ浮かんできたのだそうです。このまま何も残らずに柔道をやめたら、後悔を残して大人になるのかな?
それが嫌だった松本さんは、なんでもいいから柔道で一つ自信を持ってから、辞めようと考えます。
これが初めて柔道と向き合って自分から歩みだした第一歩となりました。
「好きとか嫌いとか関係なく、何かやっていたら気付くタイミングが有って、その時に動けるかどうか、そういう事なのかなと思います。」
自信を持つ為には結果だ、まずは日本一になるという目標を立てます。
目標達成のために、どんな自分で戦えば日本一になれるのか?と今の自分の現状を考えると、目標から逆算して全然時間が足りないと気付きます。
この時、がむしゃらに頑張っていた先輩たちの事がやっと理解できました。
才能の壁、そして野獣誕生
世界を目指すようになると次の壁にぶつかります。それは身体でした。
決して大きな体ではなく、細い体で世界の大きな選手を相手にすると40回以上の骨折をしたそうです。
ただ筋肉を増やすだけでは重たくなるだけで使いこなせない。筋肉の力を発揮する速度が重要で、反応するのが遅いので衝撃を骨で受けてしまうことになり、それがたくさんの怪我の原因でした。「身体の才能が無い」のだそうです。
そんな屈強な選手に囲まれていた事が、現役時代の松本さんの異名「野獣」と呼ばれるきっかけとなります。
その頃、松本さんに大きな気付きを与えたのがドラゴンボールの孫悟空のセリフ
「おめえ強えな、ワクワクすっぞ」
でした。
テレビを見ていてこのセリフを聞いたことで、強い相手と闘うのは怖くない、ワクワクして楽しんでいいんだ、と気付いたそうです。
いざ試合になると相手がとても怖く見えてしまい、自分も怖い顔になってしまいます。その時に悟空を思い出しワクワクするとニヤッとしてしまう。
「闘う相手がにらんできて、ニヤッとしてきたら不気味で怖いですよね(笑)」
そこから勝てるようになったそうです。
「これが私の世界を切り開く柔道だ、身体に才能はない、きれいな技もない、一本を取りたいというプライドも無い、どんな私でも戦える、だったら表情を使って野獣になろうと思いました。」
しかし、今までの日本柔道はきれいに一本を取る事を重視していたので、柔道界から嫌われ、応援されませんでした。
相手にストレスをかける闘い方で、相手を止める事は出来てもきれいに投げる事はできない、焦らせて最後に勝つ、そんな闘い方は卑怯な柔道とバッシングされました。
何のために戦うのか
批判、バッシングを受けて心が折れ、これで日本代表になったらまた批判されるのかも。それならもうやめようか…
その時に子供の頃の記憶が蘇ります。強化選手に選ばれ色々な合宿や遠征に行く姿を見たお母さんは「薫は良いね」と声を掛けました。お母さんは育児が忙しく地元から出たことがありませんでした。
「じゃあ私がお母さんを世界に連れていくね」
と中学三年の時に約束した言葉を思い出したのです。
「弱い人間なので、自分の為、では限界があって、最後まで闘う事が出来るかというと、自分で加減が出来てしまう。それが、誰かのためになったときに、ものすごい力が腹の底から湧き上がってきました。思い出したこの言葉が私の中で太い幹となり、そこから、誰に何を言われても何も感じなくなりました。」
目の前にあったのがロンドン五輪、ここにお母さんを連れていくという思いが力となったのです。
ロンドンで金を取り、お母さんにメダルを掛ける事が出来た事でまた目標を失います。
しかし、テレビなどで「母との約束」と言い続けていたことで今度はお父さんが「次はわしをオリンピックに連れて行ってくれ」と言ったそうです。
このつぶやきが次の大きな幹になった松本さんは次のリオを目指します。そして銅メダルを獲得しました。
次は東京、結婚されていた松本さんは子供の為に…ともう一度目指そうかとも考えますが、お子さんと一緒にいる時間を大切にしたいと思い、引退を選びます。
柔道を通じてつかんだもの
柔道に自分から向き合うようになった頃の松本さんは、いつか結果をだして自分をクビにした大人たちを見返してやりたいと考えていたそうです。
しかし、世界を取った時にそんな自分はもういなくて、色々な人の力があって試合が成り立つこと、そのことに感謝できるようになっていたそうです。
柔道を通じてつかんだものの一つは「感謝」。
そんな経験を糧にして、松本さんは現在ダシーズファクトリーという会社でアイスクリームの開発、販売に携わられています。
減量が必要な競技でもアイスが好きな選手が多いそうですが、糖化酸化は怪我につながるため栄養指導で言われてしまいがちです。そんなアスリートでも安心して食べられるものを作りたいという思いから、アイス屋さんになるという子供の頃の夢を叶えたのです。
最後に今回の講演会のテーマについて、
「勝ちにこだわる闘争心は誰かのために、自分の為に、そこにこだわって見つけました。」
とのことでした。
ダシーズファクトリーのアイスクリームはオンラインでも購入できます。
松本薫さんのInstagram経由で購入すると5%OFFになるそうです!
三浦商工会議所 新春講演会「勝ち」にこだわる闘争心
開催日時
2025年1月22日 15:00〜16:30
開催場所
会場名 三浦市民ホール
住所:三浦市三崎5-3-1うらり内
駐車場:あり
参加費
無料
主催
三浦商工会議所