【横須賀 ショップレポ】海辺の無人販売店-町に「小さなHAPPYを」
画像出典:湘南人
名勝立石公園から連なる秋谷海岸の目の前。真新しい別荘と古民家が入り組む旧134号線沿いの一角に「海辺の無人販売店」がオープンしたのは2024年5月のこと。涼しげな店内に並ぶ見慣れない販売機に町の子供たちが好奇心たっぷりな視線を送っていたのが印象的でした。
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秋谷の空き家を利活用
海まで10秒の好立地ですが何年も空き家になっていた古民家です。そこを地主さんから借り受けたのは秋谷のバス停前で不動産業を営むエストレードさん。物件をリフォームしてお店を開くのが目的でした。
社内で意見を出し合ったところ「海の前なのでカフェはどうか」などの提案もあったが、最初は人件費が抑えられるビジネスをということで無人販売店としてスタートしたそうです。
首都圏に近いリゾート地として物件を求める人が増えている秋谷。不動産業ならばリフォームして賃貸することも可能だったはず。自分たちでお店を始めることにしたのは「お店が少な過ぎる」という地元の人たちの声でした。
買い物に行けない人たちの食をサポート
農水省は生鮮食品店まで500m以上ある地域を買物弱者がいる可能性が高い地区としてマップ化。またその地区で暮らす自動車を持たない人を買い物困難者と認定しています。全国で累計700万人。それは離島や山奥の過疎の村だけの話ではありません。首都圏の食を支える農漁村として歴史を紡ぎ、静かな別荘地として注目されている横須賀市秋谷も近年買物弱者が増加傾向にある地域のひとつ。長年に渡って町の暮らしを支えていた食品や日用品を売るお店が高齢化による後継者問題や商業地区への大型店の進出、ECサイトの利用者増加などによるニーズの低下で次々にシャッターを降ろしていたからです。
そこで目をつけたのが冷凍食品の新業態として誕生。コロナ禍で需要を拡大させていた冷凍食品自動販売機「ど冷えもん」でした。
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この「ど冷えもん」住宅街では冷凍餃子がよく売れるそうですが、ここまで海に近い場所で無人販売店を開業したケースは珍しいとのこと。業者さんからは「何が売れるのかはやってみないとわからない」と言われたそうです。
地域で何が求められているのか?
手始めにオーベルジーヌのカレー(現在は終了しています)とともに手軽な夕食の献立やおつまみになればと陳列したのが、ハム造りの老舗として有名な浅草ハムで人気のバラ焼き豚コマ。ラーメンに入れて良し、丼にしても良し、そのままおつまみにしても良しの逸品です。
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他にも博多の天神ホルモン。亀戸餃子。焼売。水餃子。小籠包などレンジで調理するだけで夕食の献立になる品々を用意しました。豚まんがコンスタントに売れたことでこの地域に子供たちの小腹を満たすニーズがあるとわかったことも収穫だったそうです。
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そう、対面販売のような顔の見えるコミュニケーションがない代わりに、商品の売れ行きでお客さんの声を聞くのが無人販売なのです。
海辺の町のもうひとつのニーズ
また、海辺の町には住宅街にはないもうひとつのニーズがありました。それはレジャーで海岸を訪れる観光客や週末だけ別荘を利用する人たち。様々な利用規制がない秋谷海岸ではゴールデンウイークから夏場にかけてバーベキューを楽しむ人も多く見掛けます。
浜辺でバーベキューのフルコースを
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そこで美味しく、かつレジャーとしての面白味がある商品をと選んだのが「仙台牛ガチャ」。2000円で仙台牛サーロイン(200g)、仙台牛切り落とし(100g)、仙台牛すき焼き用(100g)、仙台牛焼き肉用(100g)と何かしらの仙台牛が当たる肉ガチャです。
また、お肉のほかに「バーベキューの締めに食べたくなるごはんものもあったら」と社員の方が独自ルートで探し当てたのが京都九条の本格韓国料理店「元祖ちぢみの王様」の人気メニューの数々の冷凍食品。プルコギ丼、サムギョプサル丼、チャンヂャうどん、ユッケジャンスープなどを店内にあるレンジで調理すればそのまま浜辺で食べることも可能なんです。
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さらに「食後にはスイーツも欲しいのではないか」と無人販売で売れ行きの良いショートケーキ、練乳いちごアイスなど万人受けしそうなスイーツも用意しました。
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しかしながら「子供たちがおこずかいで買いに来るにはちょっと値が張るので今後はもう少し安価なアイスなども用意していきたい」とのこと。また、町の人たちの声も聞きながら野菜などの無人販売も行っていければと考えていると言います。
この町が好きだから
ちなみに店内入口のスナック菓子はいつも秋谷海岸でお酒を飲んでいる地元の方の声で始めたそうです。
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あまり見掛けたことのない韓国のスナック菓子。せっかくだからとコンビニでは手に入らないインパクトのあるものを探したんだとか。「海老の頭」という和名がついた商品は頭と皮、足を含んだ、海老の香ばしい香りが余すところなく広がります。ビールだけでなく、スパークリングや白ワインにも合いそうです。
帰り際、お店のガラスにこんなメッセージを見つけました。
『海辺の無人販売所を通じて秋谷の皆さまに小さなhappyを感じて頂けますように』
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取材に応じて下さっていた女性社員の方が「お店の窓越しに見る秋谷の海が大好きなんです」とご自身のスマートフォンで写真を撮られている姿がとても印象的でした。不動産の仕事を通じて好きになった町の人たちのお役に立ちたいという溢れる思いを感じました。
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オープンから3ヶ月。海辺のレジャーがオフシーズンになる秋冬には季節に合ったラインナップも考えているそうです。無人販売店ができた秋谷の冬にどんなhappyが生まれるのか。町の子供たちは今日も好奇心いっぱいの瞳でお店の中を覗いています。
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店舗情報
■海辺の無人販売店
■住所:〒240-0105 神奈川県横須賀市秋谷2-9-7
■電話番号:046-854-5081
■営業時間:24時間営業
■定休日:なし
■駐車場:なし
■決済方法:現金及びpaypay