【藤沢 学校レポ】どんな世界でも生き抜く力を育む学校~湘南ホクレア学園(後編)
前編では湘南ホクレア学園の日常をレポートしました。後編では、理事長の小針一浩氏に創立の経緯や、これからの時代を生き抜くための「3つのスキル」について語っていただきます。(2023年2月27日実施)
小針一浩プロフィール
湘南ホクレア学園(以下ホクレア)理事長。複数の事業を起業してきたビジネス感覚と、趣味でサハラ砂漠やアマゾン、南極などの極地を走った経験を基に、子息の長期の病気療養期間中に自身が求めた教育を提供する場所としてホクレアを創立。
創立の経緯「どんな世界になっても生きていける子に」
--元々はお子さんのために学校をつくられたそうですね。
息子は二分脊椎症という先天性奇形障害を持って生まれました。進行すると歩けなくなる可能性もあるので、できるだけたくさん楽しい時間を一緒に過ごそうと決意して。6年前に仕事を辞めて、海と山のある片瀬に引っ越しました。
8回の手術を行い、急性リンパ性白血病も患いました。ありがたいことに無事に治療を終えることができ、いよいよ小学校入学です。
でも、長い闘病生活を経験した息子に合う学校を探しましたが「ここだ!」と思える学校には出合えなかったんです。
--それで、自分で学校をつくってしまった。
学校をつくる時、2015年生まれの息子が働き盛りになる30代半ばの時代(2050年)の世界を考えたんです。そこには*2050年問題というものがありました。
日本国内として
・超少子高齢化と人口減少
・南海トラフなどを震源とした大地震(2050年頃までに起きると予測されている)
世界的には
・AI(人工知能)、AR(拡張現実)、ブロックチェーン、ロボット等への労働移行
・地球温暖化と環境破壊
人類が初めて経験する困難や変化を、この子たちの世代は避けて通れない。
そのような世界で生き抜くために何を学べばいいのか?
答えはありません。ただ、自らが決めて、自らの責任で人生を切り拓いていく力を育む環境を作ってあげたいと考え
「どんな世界でもサバイブできる子を育てる」学校をつくろう!
と決意しました。
参照:2050年までの経済社会の構造変化と政策課題について|経済産業省
ホクレアが育む「サバイブに必要な3つのスキル」
写真:PhotoAC
--アウトドアスキルを「サバイブに必要な3つのスキル」の一つに掲げていますが、小針さんご自身がジャングルで命の危険を感じたことがあったとか。
ブラジルの「アマゾン・ジャングルマラソン」という大会で、リュックサックに1週間分の食糧を積んで270km走った時の話です。ジャングルで迷子になって。水がなくなって、危うく死ぬところでした。
その時に、現地の部族の子に出会ったんです。ナタでわなを作って動物を捕まえられるし、飲める水がどの木の根から出るかも分かる。
「ナタ1本あれば、十分に生きていられる」
と話していました。しかも、僕よりはるかにうまく英語を話していたんです。
今、日本では未成年の子たちが*年間400~500人、命を絶っている。その原因の多くは未来への不安からです。
労働がAIやロボットに移るこれからの時代、そうした(未来への)不安を持つ子がもっと増えてしまうのではないかと懸念しています。
でも、今話した部族の子のように、どこでも生きられるスキルを持っていたら、どうでしょう?
「何とでも生きていけるよね」って考えられる根拠を持っていれば、心身が安定すると思います。
*注:文部科学省の分析によると、学業不振や入試、進路の悩みなどが関係しているとみられるケースが多い。
参照リンク:去年自殺した児童生徒の数512人と最多見込み 文科省が対応通知 | NHK | 教育
--どこでも生きられる自信を持たせるのですね。
そうです。それと、アウトドアスキルを学ぶことは、実は防災スキルを身に付けることと同じです。
ホクレアでは、毎週木曜日にオーシャンスイムやトレイルランニングなどのアウトドア体育をやっていて、ロープワークや、火をおこしてご飯を炊くといった練習もします。
何があっても対応できる術を持っていれば、社会のセーフティーネットの外に出ても生きていけるのですから。
「起業マインド」で変革する社会を生き抜く
写真:子どもたちの作ったオブジェ
--二つ目のスキルは起業です。先ほどのお話に通じますが、経済の枠組みが変わっても生きられるようにしようということでしょうか。
どんな世界になったとしても、自分の力でサバイブするということです。2050年には、今以上に多くの仕事がAIとロボットに置き替わっていくでしょう。それは、どの産業分野でも同じです。
ホクレアに通う子には、2050年周辺に起こるであろう課題へ取り組むために、起業をしてもらいたいと願っています。
--起業を教える。具体的にはどんなことをするのですか?
開校して3日目に「お金教育の達人」(一般社団法人こどもmirai 代表理事の村田幸紀氏)に来てもらい「物が飛ぶように売れるお店屋さんごっこ」というワークショップを行いました。
開きたいお店(例えばレストランなど)を決めて、段ボールで看板を作り、塗り絵で商品を作ります。
その日のお客さんは保護者たちです。事前に「商品を受け取ったら『売ってくれてありがとう』と言ってください」と伝えておきました。
売った人も、買った人も「ありがとう」と言うことで、モノやコトの売買は、価値の等価交換だと気付かせるのが目的です。
地域のフリーマーケットに出店
この経験が生きたのが、地域で行われたイベントです。自分たちで企画したサービスでフリーマーケットに出店し、1日で1万8,000円の売り上げをたたき出しました。
午前中に参加費をもらって魚のオブジェを作るワークショップをやり、午後に作った魚を持ってきてもらって、もう1度参加費をもらって釣り堀をやる。
リピートまでさせるビジネスモデルを考えていたんだから、驚きです。
彼らは、人を喜ばせるためのサービスを考え、その対価としてお金を受け取ることに積極的です。このような経験を通じて、喜びの共有や感謝の気持ちを育むことができます。
「コミュニケーションスキル」で世界に仲間をつくる
写真:授業は英語で行われる。
--そして、コミュニケーションスキルですね。
どんな世界でもサバイブできるようになるためには、コミュニケーションスキルが必要ですよね。
まず、日本で生活しているのであれば、日本語を身に付けることは大前提です。
その上で、ジャングルの奥地でも通じた世界共通言語の英語を話せたら、世界中の人たちとコミュニケーションがとれる。
そう考えての英語教育であり、バイリンガル教育です。
--子どもたち、本当に人なつっこくて。人と関わろうとする意欲がすごくありますね。英語も堂々としゃべっていました。
得手不得手はあるでしょうが、子どもの多くはコミュニケーションが好きだと感じています。
でも、身近な大人や友達に自分の意見をくり返し押さえつけられていると、徐々に自分の考えや言いたいことを隠すようになってしまう。
子どもたちが、初対面の人にも積極的に話しかけるのは、ホクレアが自分の意見を自由に伝えられる「安全な場」だからです。
自然に湧き上がってくるものを大切にしているから、子どもたちは自分自身でいられるのだと思います。
子どもの意思を大切に
--最後に、入学を検討している親ごさんに一言お願いします。
まずはホームページを読んで、建学の精神に共感してもらえたら体験入学説明会にいらしてください。
子どもは素直なので、体験している間に入りたいかどうかを感じとります。子どもが自分の意思で行くと決めたら、できるだけサポートしてあげてほしいです。
最終的に申し込むのは親ごさんですが、本人が自分で入学を決めることを大切にしてもらえたら嬉しいです。
--今日はどうもありがとうございました。
まとめ
息子さんだけでも始める覚悟があったという湘南ホクレア学園。23年度には5名の新入生が入学し、24年度の入学希望者からも問い合わせがあるそうです。
今後ますます注目を集めそうな、可能性に満ちた学校でした。
学校紹介
【インタナティブスクール 湘南ホクレア学園】
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■電話:0466-66-8626
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