【鎌倉 イベントレポ】浮浪庵 flow-an 茶×アート×鎌倉 ー 循環する茶室と武家茶道(前編)
海を望み、谷戸を背に立つ簡素な茶室。遠くに聞こえる鳥のさえずり。一瞬の風が立ち、揺れるふくさ。ひしゃくを構える素早い手さばき。
鎌倉歴史文化交流館の中庭に設置された茶室「浮浪庵(ふろうあん)」でのお点前の様子です。
11月1日から12月2日までの1カ月間にわたって、同館で茶道とアートを掛け合わせたユニークな展覧会「浮浪庵 flow-an 茶×アート×鎌倉 by 鎌倉歴史文化交流館+ASAL」が開催されました。
主催は鎌倉歴史文化交流館と、アートイベントやアーティストプロデュースを手掛ける団体「ASAL」。
工事現場で使う足場用のパイプと農業用の布で造られた、アート作品でもある茶室「浮浪庵」での点前と展覧会をご紹介します。
鉄パイプと布で造られた2畳の茶室
茶会の会場となる「浮浪庵 flow-an」です。車輪付きで自由に移動でき、文字どおり浮浪するこの2畳の茶室は解体・組み立ても自由。終わった後は車で次の場所へ運んで再度組み立てられる、サステナブルな仕様になっています。
この茶室を手掛けたのは建築家、アーティスト、キュレーターであり東京藝術大学大学院助教の渡辺 育(わたなべ・いく)さん。
突如として現れ、やがて消えていく。あたかも人の生涯のように漂う茶室は、移ろう時間の中でつかの間の一期一会の舞台となって、その場を輝かせます。
「足るを知るのが禅の精神」禅宗から派生した武家茶道
お点前を披露してくださるのは、壺月遠州流(こげつえんしゅうりゅう)禪茶道宗家 四世家元 中村 如栴(なかむら・にょせん)さんです。
壺月遠州流は、大名やその家臣たちに伝わった武家茶道・遠州流の流れをくむ禅茶の流派です。武芸に通じる、合理的で美しい体さばきがあり、その動きは「能のようだ」と評されることもあります。
中村さんに、浮浪庵でのお点前の感想を伺うと「気持ちいいです。野外でやる茶会を野点(のだて)というんですけれども、楽しいですね。茶室も、余計な物を持たない流派の考えに親和性があって、私のスタイルに合っています」とおっしゃいます。
「禅茶道というのですが、お茶と禅には密接な関係があります。余計なことを考えず、目の前のお点前に集中するところが禅の考えに通じるんです。
動禅(どうぜん)というのですが、動きながらお点前をしていくうちに、瞑想(めいそう)しているような感覚になっていきます。
昔の侍は茶道で精神を磨いていました。一つの物事にぐっと集中する精神性が、武士に受け入れられたんです」と武家茶道について説明してくださいました。
そうは言ってもパイプと布でできた茶室、あまりに簡素すぎるのでは? とお聞きすると、
「仏教には『足るを知る』といって、今あるもので楽しむ、ないものを欲しがらないという考え方があります。
一見ストイックなようですが、根本は「楽に生きる」ための哲学です。そんな精神性によく合っているんじゃないでしょうか」とのことでした。
お点前を拝見
いよいよ、お点前です。せっかくですからと、隣で拝見することになりました。浜野も一緒に茶室に上がらせていただき、一礼して開始です。
スタートは静かに。家元が両手に茶道具の水壺(すいこ)を持ったまま、正座からスクワットのように立ち上がります。
そのまま能さながらにすり足で歩き、向きを変えて再び座ると、茶器を並べていきます。
ゆったりとした動きのさなかに突然、居合抜きのように素早くひしゃくを構える鋭い動き。
一つ一つは丁寧な所作でありながら、時にゆったりと、時に素早く緩急のリズムを刻み、見る者を引き込んでいきます。
お茶を点てようとした瞬間に風が吹き、道具が飛んでしまうハプニングも外ならでは。舞い込んだ落ち葉が静かに膝元に止まり、再びお点前は続きます。
ザワザワと鳴る葉ずれの音を聞きながら手さばきに見入っているうちに、茶室の柱が鉄パイプであることはすっかり頭から消えていました。
展覧会の企画・主催者ASALの野村和代(のむら・かずよ)さんです。今回の開催について「茶道というと敷居が高いですが、浮浪庵でだったら気軽に楽しめるのではないかと思います。
これで終わりにせず、浮浪庵をいろいろな所に運んでイベントを開催したい。日本の文化を次世代につないでいければ」と話してくれました。
鎌倉と喫茶文化
鎌倉はお茶にゆかりの深い土地です。13世紀、禅宗の栄西(えいさい/ようさい)が、南宋(当時の中国)から抹茶を飲む飲茶法を持ち帰りました。
鎌倉歴史文化交流館の展示説明文によると、当時の歴史書『吾妻鏡(あずまかがみ)』には、鎌倉幕府3代将軍源実朝(みなもとのさねとも)が二日酔いになった際に、栄西がお茶と自身の著書『喫茶養生記』を献上し、喜ばれたと書かれています。
期間中、館内ではお茶とアートにまつわる展示も行われました。
写真手前の2枚の絵皿は北条時房・顕時邸跡から出土した梅と楓の文様の漆皿。
この2枚は複製がミュージアムグッズとして販売されていて、開期中の呈茶(ていちゃ)イベントでも使われました。
写真右上の青磁の茶盌(ちゃわん)は「青磁鎬蓮弁文碗(せいじしのぎれんべんもんわん)」。
元の時代に中国で焼かれた青磁の器で、鎌倉市内の若宮大路周辺遺跡群から出土しました。完全な形で発見されるのは珍しいそうです。
さまざまな年代の作家によるアート作品も展示
茶道や茶室が総合芸術といわれていることもあり、アート作品も同時
こちらはASALの野村和代さんと息子さんの海蒼(みそら)さんの親子アートユニット「by N(バイエヌ)」の作品「Images from Kamakura」です。
和代さん撮影の写真と、海蒼さん制作のコンピューターグラフィックスをアクリル板にプリントしています。
齋藤さんは、武蔵野美術大学卒業の20代のプロダクトデザイナー。スモッキングの技法を使った、布製のランプシェードは女性に大人気だとか。ご自身で一針一針縫って作っているそうです。
浮浪庵の前に置かれた鍋も、実はアート作品。彫刻家・原田和男さんの音響彫刻「コモレビ」です。水琴窟(すいきんくつ)に見立てて茶室のそばに置いたのだとか。
meechee(ミーチー)さんは2人の男の子のお母さんで、日常の楽しいことを作品にしている作家さん。外で茶会をやるので、てるてる坊主の作品TERU TERU(テルテル)が選ばれました。
Puddle Mirror(パドルミラー)は、水たまりをのぞき込む時のワクワク感を作品にしたもの。
普通なら壁に飾る鏡を下に置くことによって、
お茶が伝える諸行無常
移動する茶室、浮浪庵での点前は五感が研ぎ澄まされる体験でした。一杯のお茶をとおして教わったのは一瞬に集中する侍の生き様と、楽に生きよと説く賢人の教えです。
暖かい日差しの中で、お茶は時空を超えて「いま・ここ」に意識を向けよと促してくるようでした。
▼後編は本記事でお点前を披露していただいた中村 如栴さんと、浮浪庵の作者、渡辺育さんのインタビューです。併せてご一読ください!
https://shonanjin.com/w/news/flow-an_interview/
イベント詳細
■抹茶を一服(呈茶)休館日を除く毎週木・金・土 参加料1500円(入館料含)
■浮浪庵での茶会 休館日を除く毎週金・土 参加料4000円(入館料含)
■ヨルカマ~夜の呈茶と浮浪庵 11月4日(土)、10日(金)
17:00~19:30 参加料2000円(入館料含)
■レクチャー&アーティストトーク 映像の投影とライトアップ 呈茶付き
11月24日(金) 18:00~20:00 参加料3000円(入館料含)
日付:2023年11月1日~12月2日
場所:鎌倉歴史文化交流館 交流室、庭園
観覧料:一般400円[300円]小・中学生150円[100円]
(注)[ ]内は20名以上団体料金 鎌倉市民は無料
休館:日・祝、年末年始、展示替え期間など
主催:鎌倉歴史文化交流館+ASAL
問い合わせ先:ASAL(企画) 090-2153-0311(SMS)
地図
郵便番号:〒248-0011
住所:鎌倉市扇ガ谷1-5-1
電話番号:0467-73-8501
アクセス
JR・江ノ電鎌倉駅より徒歩7分
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