【逗子 グルメレポ】コツボ89 – 日常と非日常が滲みあう小坪漁港入り口でちょい飲みはいかが?
2022年7月に逗子市小坪に移住して間もない頃のこと、小坪漁港の入り口にある「椿丸」という釣り船屋の先代が亡くなられた時に、大勢の参列者が斎場に押しかけたため警察が出動して交通整理をする事態になった、という地元の伝説を耳にしました。
「先代はお酒が好きで、亡くなる頃はちょうど自宅の空き部屋にバーカウンターを作るためのリフォーム中だったんです。完成直前に亡くなってしまって」と語るのは、週末に釣り船「椿丸」が見せるもう1つの顔「コツボ89」の看板娘マイさん。先代の一人娘です。
「釣り船屋が午後に閉店した後のお店の空間を有効活用できないかという話は以前からありました。先代が完成したバーカウンターに飲み仲間を招くのを心待ちにしていたこともあり、いっそここで居酒屋を始めたらどうかという話になったんです」
釣り人の待合室が今ではコの字酒場へと変貌
コツボ89は2024年のGWに飲食店が極端に少ない小坪エリアで、金~日・祝限定営業ながらちょい飲みができる貴重な居酒屋としてオープンしました。小坪地元民の憩いの場としてあっというまに地域に根づき、現在では週末のたび常連さんを中心に賑わいを見せています。
信玄どりの柔らかさとマイルドなうま味が生きる焼き鳥
お店の推しは山梨県の銘柄鶏である信玄どりの焼き鳥(200円/1本 税込)。信玄どりは、大勢に慕われた先代から椿丸を受け継いだ「船長」ことオーナー謙一さんのお気に入り食材です。塩とタレが選べますが、筆者は信玄どりの低脂肪のマイルドなうま味をストレートに味わえる塩一択です。
大きめにスライスしたレモンとたっぷりめのマヨネーズが添えられる鶏唐揚げ(500円 税込)も定番メニューです。こちらも信玄どりの持ち味である柔らかな歯応えを堪能できる一品でおすすめです。
キンッキンに冷え切った生ビールのジョッキ(600円 税込)からは、釣り船屋の片手間ではないぞという本気度が伝わってきます。
この日は定番メニューとは別に日替わりメニューとして、人気の焼き鳥ももをたっぷりの葱をまぶしてバージョンアップさせた「もも串~十勝産マッシュルームダレ~」(300円/1本 税込)がありました。
味わってみると、マッシュルームの風味が思いのほか強いイタリアンの趣です。
さらにもう1品、昼の釣り船営業の合間に謙一さんが釣りあげたカツオを新鮮なうちに醤油だれに漬け込んだ「カツオの漬け刺身」(300円 税込)も用意されていました。
こちらはすりおろしニンニクの風味がガツンと効いたド直球の和の趣。
この2品の間の振り幅がそのままコツボ89の日替わりメニューの意外性に繋がっているのかもしれません。
このように昼の釣り船営業の合間に謙一さんや中乗りさんが釣りあげたこの上ない新鮮な魚が、刺身やフライなどの日替わりメニューとして登場することがあります。過去に勝浦の釣り船屋仲間から譲り受けたという大ぶりなアワビを丸ごとステーキに仕立てた大胆な一皿を格安で味わえたこともあります。天候にもより何が飛び出すかわからない海鮮メニューも楽しみの1つです。
つい微笑んでしまう可愛い魚柄の床
コツボ89の板場を預かっている板前さんは渋谷の和食とクラフトビールのペアリングを売りにした某店でシェフをやられていた方と伺っています。釣り人として椿丸を利用していた当時の板前さんが釣り好きが高じて逗子に移住、そこへちょうど板前を探していた謙一さんから「待ってました!」とばかりに声がかかったのだそうです。
釣り船屋とは違う顔のお店に見えて、その足元には「釣り」というキーワードがしっかりと刻まれているエピソードです。
足元といえば、魚模様の床が可愛く、赤い塗料が銀残しみたくはげ落ちていて味があります。
地元感あふれる風景の一部になれる外飲み。ペット同伴もOK!
味のある店内で飲むのもいいですが、筆者がおすすめするのは外飲みです。
道の向かいに並ぶ地元の生活感漂う老舗の肉屋にちいさな郵便局。ふと小坪漁港の方に視線を投げると、一転して広がるのは夕焼けの空をバックに逗子マリーナのレトロ建築と椰子の連なり。
小坪漁港の女性漁師さんが工作したと聞くファンシーなピンク色のベンチに腰掛け、こちらも真逆の印象の、一昔前の新橋を思い出すビールケースを積み重ねてボルトで固定したテーブルの上の生ビールを飲んでいると、日常と非日常が不思議に滲みあう小坪独特の雰囲気に包まれるのを感じます。
外飲みということでペット同伴で飲めるのもこのお店の大きな特徴です。
この日飲みにきていた常連さんで美ボディコンテスト荒らしで知られるマユミンさんは、ハイボール(500円 税込)を飲みながら保護犬レオンくんと一緒にシャボン玉を楽しんでいました。こんな自由な飲み方ができるのもコツボ89ならではです。
まさかのアイス屋さん併設、〆のデザートまで隙なし?
地元民が集うディープなお店に見えますが、そこは別荘地小坪、近くにはホテルも複数あり、県外から泊まりに来ている人がふらりと暖簾をくぐって入ってくることもあります。
もともと移住者が多い地域なので、筆者のような都内からの移住組のお客も珍しくありません。看板娘のマイさんがどなたでもフレンドリーにお迎えしてくれるので、初めて観光で来られた際に気まぐれで立ち寄るのもよさそうです。
ちなみに、居酒屋に先立ち2023年に開業した同名のアイス屋さんも同じ店内で営業中。居酒屋と同時16時にオープンし21時に閉店する少々風変わりなアイス屋さんも、椿丸の3つめの顔と言えるでしょう。コツボ89の〆としてはもちろん、晩ご飯の後にちょいと冷たいものが恋しくなった際にぜひ訪れてみてください。
前述した店前のピンク色のベンチは、当初こちらのアイス屋さんに付属するアイテムだったようです。
多くの人に愛された伝説の先代から受け継いだDNAはどこへ向かって進化し続けるのか、これからも楽しみです。
店舗情報
【コツポ89】
住所:〒249-0008 神奈川県逗子市小坪5-2-10
電話番号:0120-89-1091
営業時間:金~日・祝 / 16:00~21:00
定休日:月~木