【鎌倉 イベントレポ】海と山と、それから-アートギャラリー「HUG FOR_.」で見えてくる透明な風景
「海や山を眺めるように、日常と地続きのリラックスした心持ちでアートを感じてもらいたい」と語るのは、由比ガ浜にあるアートギャラリー「HUG FOR_.(ハグフォアー)」オーナー奥山英里子さんです。
街歩きとギャラリーが繋がるアートプロジェクト
2023年の夏頃、奥山さんの中に「鎌倉周辺の小規模なギャラリーが連携することで何か面白いことができないか」という思いが芽生えたそうです。
当初は奥山さんと友人の2人、浄明寺の古美術ギャラリー「Quadrivium Ostium」オーナー黒田幸代さん、長谷の「Books&Gallery 海と本」オーナー鎌田啓佑さんで動き出し、そこに江ノ島の「Gallery&Cafe Gigi」オーナー石川直也さんが加わることで、現在のラインナップが完成しました。
4人が共に抱いていたのは、「アートギャラリーの存在は地元の人にあまり知られていない」という課題感。親交のあるギャラリーオーナー同士の雑談が数か月をかけてじわじわと熱を帯び、プロジェクトの形を成していったそうです。
「目的は鎌倉の人たちにギャラリーを知ってもらうこと、よくある街のスタンプラリーのように気軽にギャラリーを訪ずれてもらうこと」と奥山さん。「4人のオーナーのコミュニケーションは密に。月1回の定例会、会期が迫ると月2回。基本オンラインでしたが、ビールやご飯を持ち込んでここで議論を重ねたこともありました」
それぞれ個性豊かなギャラリーを営むオーナー4人ですが、意見の対立はなかったとのこと。4人ともに俯瞰でプロジェクトをとらえて最適解を考えられるスタンスと、重要事項は4人の合意により決定するというルールが秘訣だったようです。
そうして2024年11月3日(日)、街歩きとギャラリーが繋がるアートプロジェクト「海と山と、それから」の会期がスタートしました。
三人展「透明な風景、あるいはその周辺」
筆者が取材のためHUG FOR_.を訪れた11/9(土)は、三人展「透明な風景、あるいはその周辺」が開催中でした。
海と山・・・鎌倉の自然をモチーフにしているイベントとして、奥山さんには「自然と調和」「共存」というイメージがありました。そのため個展ではなく、複数の作家を集めたグループ展を構想したそうです。
ガラス彫刻の八田 綾子さん、空間表現のKocoro Katohさん、植物染のMakoto Okudaさん。
いずれも異質な才能である3者の表現を繋ぐ軸として、マーシャ・ブラウンの詩集『目であるく、かたちをきく、さわってみる。』を手掛かりにしました。3者はこの詩集中のフレーズをヒントに作品世界を展開しました。
「グループ展の場合、壁ごとに各アーティストの作品を区分けする方法もありますが、今回は1つの空間のなかで3者が調和する展示方法を考えました」と奥山さん。「見る人の立ち位置により、異なる作家の作品が重なって見えるように展示しています。この作品とこの作品が重なると宇宙空間に見えるという来場者の声を聞いたりします」
取材に入るにあたり八田さんから寄せられたメッセージからも、グループ展ならではの効果を窺い知ることができます。
「奥山さんからご提示いただいた展示タイトルを聞いて、虹のふと現れては消えてしまう色彩や水面に見えるプリズム、移り変わる鎌倉の空、ガラスコップに映る風景など、日常の中で揺らいで見える色彩を思い浮かべました。光の現象を引き立てるためにカラーレスや色彩を少量にしている作品が多いのですが、今回の三人展では作品同士の関係性や色の映り込みなど、単体で展示をする時よりも作品から見える色彩が多くなったと感じています」
心臓と生まれたてのカタツムリ
作品そのものにも目を惹かれますが、作品と同等に強い存在感を放っているのが作品の陰たちでした。
「光と陰、風の動きが作品の中にあります。八田さんのガラス作品はタンポポを題材にしていますが、実際の植物にも表と裏、光と影があります。わたしたちは表の部分、物質的な部分をとらえがちです。だけどそれ以外の部分に目を向けることで発見が生まれることがあります」
奥山さんの言葉です。
こちらの八田さんの作品を見た4歳の子供が「心臓みたい」と呟いたそうです。
このエピソードを作者にフィードバックしたところ、作者からは「浜辺の命を連想して制作したものだから、命と繋がるイメージでとらえてもらえたことが嬉しい」という反応が返ってきたそうです。
筆者自身はこちらの作品を心の中で「生まれたてのカタツムリのよう」と受け止めていました。
質感は全然違うのに、命とまっすぐに連なるイメージが膨らむのが不思議でした。
五感で体感する作品群
水に触れられる作品も展示されていました。
指先で水をかき回すと、水面の揺らぎで反射する光の色と周辺に落ちる陰影が変化します。
切り取られた自然に触れることで、自然の存在や命の意味、それらが持つ美しさを再確認している気がしました。
鎌倉という場所だからこそできること
奥山さんは当イベントについて、「鎌倉という場所だからこそできること」と話します。
海と山という4人のオーナーを魅了するもの。4人が共通の愛着心を抱いている鎌倉という街。
鎌倉の自然と街への共感を通じて、4人のオーナーが緩やかに結ばれている。だからこそ4人が風通しの良い関係のままこのイベントを開催まで漕ぎつけることができたと言います。
また、その共感は4人にとどまらず鎌倉に住む人たち、鎌倉を訪れる人たちに通じているもののはずです。
「よくある街のスタンプラリーのように気軽にギャラリーを訪れてほしい」。
そんな奥山さんの思いは本当に4つのギャラリーを回遊するスタンプラリーの形で具現化しました。4つのスタンプが揃うとオリジナルの限定ZINEが進呈されます。
「来年以降のことはこれから検討ですが、次回はもしかしたらリーフレットではなく、布のトートバックにスタンプを押していって、コンプリートすると図柄が浮かびあがる仕立てにするかもしれない」とにっこりする奥山さん。
今回が初開催。始まってみて、すでにいくつかの課題が芽吹き始めているそうです。
次回に向け、その課題を1つ1つクリアすることでより洗練されたイベントにしていく。その工程は運営者の一人として苦しみと同時に楽しみでもあります。
今後11月の年中行事として鎌倉を賑わすイベントに育っていくのかもしれません。
イベント概要
海と山と、それから
- 開催期間: 2024年11月3日(日・祝)〜 11月24日(日)
- 参加ギャラリー: HUG FOR_.(由比ガ浜)、Quadrivium Ostium(浄明寺)、Books & Gallery 海と本(長谷)、Gallery & Cafe Gigi(江の島)
詳細はこちら。
HUG FOR_.アクセス
- 住所:〒248-0014 神奈川県鎌倉市由比ガ浜1-1-29今小路ビル 2F
(JR /江ノ島電鉄 鎌倉駅西口 徒歩5分)
- Mail: info@hugfor.com
- 営業時間:11:30 – 18:00
※休廊日は展覧会に準じます。