【逗子 イベントレポ】逗子LIVE INCLUSIVE 2024-垣根を越え、共に立つステージ
障がいのあるアーティストとトップスターが共演する「逗子LIVE INCLUSIVE 2024」が3月24日に逗子文化プラザ なぎさホールで開催されました。
逗子文化プラザ市民交流センターが主催する「逗子トモイクフェスティバル」の一環として行うもので、今回が初の試みです。
一流ミュージシャンのコンサートやアルバム制作をサポートする、腕利きのセッション・ミュージシャン4名からなるLIVE INCLUSIVEスペシャルバンドとジャンルを越えて集まった8人のソリスト。
合わせて12名の出演者が曲ごとに入れ替わるスペシャルなステージ!
ソリストの皆さんはそれぞれ1曲ずつご自身の一番伝えたい曲を選び、さらに初顔合わせも多いソリスト同士が協力して作り上げるコラボ曲をプラス。合計14曲を演奏しました。
和気あいあいと掛け合いが続くハートフルなステージと、出演者のコメントをご紹介します。
北原新之助さんらによる、カルメン「闘牛士の歌」
オープニングでは大きな拍手に迎えられて全員が登場。ディズニーの歌3曲、ギターとバイオリン演奏が2曲続き、クラシック音楽のコーナーが始まりました。
声楽家の北原新之助さんは、オペラ『カルメン』のアリア「闘牛士の歌」を披露しました。ピアニストの藤吉乙羽(おとは)さんと、バイオリニストの水野紗希(さき)さん、3人によるアンサンブルです。
北原さんの華やかなバリトン、藤吉さんの透明感のあるピアノ、そして水野さんの響きわたるバイオリンの協演に会場からは大きな拍手。
3人のうち北原さんと藤吉さんは視覚障がい者ですが、そうと言われなければ全く気付かない、プロの演奏でした。
筑波大学附属視覚特別支援学校について
北原さんと藤吉さんは、筑波大学附属視覚特別支援学校という、視覚障がい者のための学校の音楽科で音楽を専門に学びました。 この学校は高等部音楽科と、その上に2年間勉強できる専攻科音楽科がありましたが、その専攻科音楽科が2024年3月で閉鎖。70年以上続いた歴史に幕を下ろしました。 藤吉さんは「専攻科は高等部音楽科を卒業後に、さらに力をつけて音楽大学に行きたい方や、大人になってから視覚障がいになられた方が学ぶ場として機能していました。なくなってしまうのは当事者にとって大きなことで、大変残念です」と閉鎖を惜しみます。 北原さんも「視覚障がい者が音楽を目指すのは厳しい一面がありますが、当事者にとって音楽が立派な選択肢の一つであること。音楽を愛し、生業として生きている者がいることをぜひ皆さんに知っていただきたいです」と力を込めて話していました。 |
ラテンのリズムでソーラン節!?
後半は、ご自身が札幌出身だという本コンサートの音楽監督、進藤克己(かつみ)さんが水野紗希さんのバイオリンや大儀見元さんのパーカッションを加えてラテン音楽風に編曲した、北海道民謡「ソーラン節」からスタート。
「どっこいしょ、どっこいしょ! ソーラン、ソーラン!」の掛け声とともに大迫力の演奏が始まると、会場からも手拍子と掛け声が。
よく知っている曲だからでしょうか、年配の女性が楽しそうに体を動かしています。本日1番といっても過言ではない、とびきりの盛り上りでした!
本人が歌う~大ヒット曲「ホール・ニュー・ワールド」
クライマックスは続きます。ディズニーアニメ映画「アラジン」で実際に主題歌を歌った石井一孝(かずたか)さん、麻生かほ里さんによる、リアル「ホール・ニュー・ワールド」です。
心地よいお2人のデュエットを聴いていると、映画のシーンが自然と目に浮かんできます。ずっと聴いていたい……。
フィナーレは希望を込めて「Over The Rainbow」
フィナーレは出演アーティスト8名が横一列に並び、「Over The Rainbow(オーバー・ザ・レインボウ)」を歌って本日のライブを締めくくります。
演奏後は記念撮影。舞台から客席にカメラを向けて、出演者と観客が一緒に写真に入ります。全員笑顔で、会場が一つになりました!
企画構成を担当した、石井一孝さん
今回、企画の段階から携わらせていただきました、シンガーでミュージカル俳優の石井一孝 と申します。
いろいろな方が一堂に会してボーダーレスで取り組むコンサート。ステージの構成的なこともやろうということで、音楽監督の進藤克己さんらと一緒に、本日の公演をすることができました。
僕は東京の葛飾区出身なので、シーサイドの逗子は憧れの街です。海鮮もおいしいし、海も空もきれいで。ここでできることを本当にうれしく思っています。
こんなに素晴らしいコンサートを、才能のある出演者とスタッフ、みんなで創り上げたことが忘れられないです。皆様にとっても、このコンサートがいい思い出になってくれたらうれしいなと思います。
※俳優の石井一孝さんは、本コンサートの企画構成を担当。ディズニーのアニメ映画「アラジン」日本版で歌唱を担当。ミュージカル「レ・ミゼラブル」を始め、数々のミュージカルに出演。シンガーソングライターとしても活動し、コンサートやアルバム発表を積極的に行っています。
視覚障がいのあるピアニスト 藤吉乙羽さん
今日は一流アーティストの方と共演させていただいて、素晴らしい機会でした。
自分の演奏をさらに磨いていこうという気持ちになりましたし、アンサンブルもさせていただいて、音楽でコミュニケーションを取ることはとても良い経験になりました。
演奏家として、また現在は東京藝術大学大学院で音楽教育の勉強もしているので、今後も皆さんが気軽に音楽に触れられる機会を提供できたらいいなと思っています。これからもよろしくお願いします!
※藤吉乙羽さんは筑波大学附属視覚特別支援学校高等部音楽科、国立音楽大学演奏・創作学科鍵盤楽器専修卒業。現在、東京藝術大学大学院音楽研究科博士後期課程にて音楽教育を専攻しながら演奏活動を行っています。
藤吉さんに、点字楽譜がどんなものかお聞きしました
「私は点字の楽譜を使って演奏するのですが、点字は横に1列に書いていく文字なので、楽譜も横書きなんです。 和音も順番に1音ずつ横に並んでいて、クレッシェンドやフォルテといった記号も全部横並びです。 紙に印刷する楽譜は音の高低や重なりが分かりやすく描かれていますが、全部横書きだとそれが分かりづらいのが大変なところです。 ただ、点字楽譜の仕組みの複雑さやそれを読む大変さはありますが、それ以上に、曲の理解を深めながらより良い演奏をつくり上げるうえで、点字楽譜が欠かせない大切な存在であることはみなさんにお伝えしたいです」と藤吉さん。 浜野もピアノを弾くので市販の楽譜を使っていますが、それでも読むのは大変です。それに、楽譜が読めても実際に弾けるかどうかはまた別の話です。 今日の演奏は、途方もない手間を乗り越える情熱のたまものだったのですね。恐れ入りました! |
左手だけで演奏する、片腕のギタリスト輝彦さん
素敵なライブでした。普段ステージでは独りで演奏を完結しているんですけれども、今日はいろいろなミュージシャンとコラボできて本当にうれしかったです。
障がいがある中で音楽をやるのはなかなか難しくて、諦めてしまう人も多いんです。それでも音楽が大好きでやりたい人がいたら、皆さん支援していただきたいなと思います。
※輝彦さんは、プロミュージシャンとして活躍中に脳出血により右半身麻痺の後遺症が残りました。その後タッピングという奏法を使い、5年かけて左手だけでのギターを弾くことに成功。東京2020パラリンピック閉会式でその演奏を披露しました。
会場にはVRコーナーや物販コーナーも
会場入り口にVRのコーナーがありました。専用の眼鏡を装着すると、3D空間で写真のような仮想空間が現れ、自分のアバターが会場を自由に歩き回ってライブINCLUSIVEの告知を見て回れます。
スタッフの方は「家にいながら外に出掛けるような体験ができます。障がいのある人にも優しいシステムではないかということで、展示しました」と説明してくれました。
会場入り口では、オリジナルTシャツや出演者のCD、書籍などのグッズを販売していました。
「好き」の力で垣根は越えられる
個人的な話で恐縮ですが、浜野はピアニストの藤吉乙羽さんと同じ音楽大学の同窓生です。
今回同じピアノ仲間として藤吉さんにお話を伺い、初めてその大変さをリアルに想像できた気がします。
音楽に限らず、好きなことを共通項にして関わってみると、お互いの理解はもっと進むのかもしれません。
今日のコンサートを振り返ると、客席に車いすに乗る人や白杖(はくじょう)を持つ人はいましたが、それ以外は他のコンサートと変わらない、音楽と拍手、歓声の空間でした。
好きなことに打ち込んで困難を乗り越え、周囲と喜びを共有する。その素晴らしさは誰にとっても同じではないでしょうか。
LIVE INCLUSIVE、次回も楽しみです!
イベント詳細
【LIVE INCLUSIVE 2024】
■日付 2024年3月24日
■場所 逗子文化プラザ なぎさホール
■入場料 大人:前売り4,500円、当日5,000円。子ども:前売り2,000円、当日2,500円
※小学生は子ども料金
※車いす席あり(要予約)
■主催:逗子文化プラザ市民交流センター 共催:一般社団法人ソーシャルアートラボ
逗子文化プラザホール、逗子市
地図
郵便番号:249-0006
住所:神奈川県逗子市逗子4-2-10
電話番号:046-870-6622(代表)
アクセス
JR逗子駅より徒歩5分
駐車場あり(台数に限りあり)